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福岡地方裁判所 平成5年(ワ)1269号 判決 1996年2月27日

兵庫県伊丹市森本二丁目二〇一番地

原告

永田希喜

右訴訟代理人弁護士

福地祐一

右補佐人弁理士

松尾憲一郎

福岡県大野城市仲畑二丁目五番三〇号

被告

株式会社コアーパック

右代表者代表取締役

宿谷秀寿

右訴訟代理人弁護士

高森浩

右補佐人弁理士

綾田正道

平田義則

主文

一  被告は、別紙目録記載のコア採取器具を製造し、販売してはならない。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  主文第一項同旨。

二  被告は、原告に対し、金一五〇〇万円及びこれに対する平成五年五月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  第一、二項につき仮執行宣言。

第二  事案の概要

本件は、ダブルチューブ式のコア採取器具につき登録第一八六二七四九号の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有する原告が、被告において製造する別紙目録記載のコア採取器具(イ号物件)が本件実用新案権を侵害するとして、その製造販売の差止めと損害賠償等を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、本件実用新案権を有する。

2  本件実用新案権の出願の願書に添付した明細書の「実用新案登録請求の範囲」の記載は別紙実用新案公報(甲三号証)の同欄記載のとおりである。

3  本件考案の構成要件

<1> コアチューブ1がインナーコアチューブ1aとアウトコアチューブ1bとから成るダブルコアチューブ型で、そのアウトコアチューブ1bの先端にジョイントチューブ13をねじ結合により連結し、そのジョイントチューブ13の先端にねじ結合により岩石等を切削するビット2を取付けるとともに後端にはボーリングロッド3を連結し、

<2> 一方、インナーコアチューブ1aの先端に前記ジョイントチューブ13に対応して位置されるエキステンションチューブ8を連結し、かつ前記エキステンションチューブ8の内面全周にそのチューブ8と同一軸の円筒状凹部4を形成し、

<3> その凹部4に、有底円筒状の袋5をその軸がコアチューブ1の中心軸となるとともに底部5bが凹部4後端からエキステンションチューブ8内方に張り出すように収納し、

<4> 前記凹部4の開口をその後端を除いてコアチューブ1と同一軸でビット2内径とほぼ同一内径の円筒状収納チューブ10により閉塞するとともに、

<5> この収納チューブ10をエキステンションチューブ8を介してインナーコアチューブ1aに着脱可能に取付け、

<6> コア切削につれ、そのコアAが前記収納チューブ10内及びインナーコアチューブ1a内を前記袋5を凹部4から引き出しながら進行するダブルチューブ式のコア採取器具において、

<7> 上記ジョイントチューブ13のビット2及びアウトコアチューブ1bとねじ結合するねじ部分13'を内面に形成し、

<8> 上記エキステンションチューブ8の外面を、ビット2及びアウトコアチューブ1bの内面より外面に位置させたことを特徴とするコア採取器具。

4  本件考案の作用効果

ジョイントチューブのビット及びアウトコアチューブとねじ結合するねじ部分を内面に形成し、袋収納部を形成するエキステンションチューブの外面を、ビット及びアウトコアチューブの内面より外側に位置させた構成としたので、インナーコアチューブ内面から外側への距離(深さ)で決定される袋収納部を大きくとることができ、袋の長さを長くとっても十分にかつ確実に収納することができて円滑な送出しが行われる効果がある。

5  被告は、イ号物件を業として製造販売している。

二  争点に関する当事者双方の主張の要旨

1  イ号物件が本件考案の技術的範囲に属するか否か

(一) 原告

(1) イ号物件は、基本的に本件考案の構成要件(前記一3)を充足している。

(2) イ号物件におけるリーマーの存在と構成要件<1>、<7>、<8>の充足について

イ号物件は、アウトコアチューブの先端とジョイントチューブとの間にリーマーが介設されている。

リーマーとアウトコアチューブは当然異なる部材であるが、本件考案の技術は、ジョイントチューブ13がアウトコアチューブ1aの先端に位置していればよいのであり、その間にリーマーが介在していれば、リーマーも含めてアウトコアチューブとみるべきである。

リーマーがあるために、本件考案の技術目的及び作用効果に相違が出るものではなく(本件考案の要旨は、ジョイントチューブ13とビット2及びアウトコアチューブ1bとのねじ部分13'の内面形成の点、並びにエキステンションチューブ8の外面との位置関係の点にあるのであり、かかる要旨部分から離れた位置にあるイ号物件のリーマーの存在は、全く本件考案の要旨たる技術に関係しない。また、イ号物件ではリーマーを連結しているから硬質地層のボーリングにも使用できるとしても、右は本件考案の技術目的とは全く関係のない作用効果である。)、したがって、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属するといえるものである。

(3) イ号物件における連結チューブの存在と構成要件<2>、<5>、<6>の充足について

イ号物件は、インナーコアチューブ1aとエキステンションチューブ8との間に連結チューブが介在している。

しかしながら、連結チューブがインナーコアチューブ1aとエキステンションチューブ8との間にあろうとなかろうと、本件考案の意図した技術目的及び効果は達成できているのであって(連結チューブは本件考案の要旨とは関係のない部分での構造である。)、したがって、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属するといえるものである。

(4) イ号物件における「有底円筒状の袋」の不存在と構成要件<3>の充足について

イ号物件は、有底円筒状の袋を有していない。

しかしながら、本件考案の構成要件<3>における「有底」とは、切削につれて袋内に進入してくるコアの先端部に当接する当接部を有することを意味し、この当接部がコアに押されることによって、コアの進行に伴って後方に後退可能な構成であればよいのであって(別紙実用新案公報〔甲三号証〕第三図面に他の実施例として無底形状が図示されていることからも、この点は明らかである。)、右の意味でイ号物件は、構成要件<3>を充足することは明らかであり、本件考案の技術的範囲に属するといえるものである。

(二) 被告

(1) リーマーの存在

本件考案では、「アウトコアチューブ1bの先端にジョイントチューブ13をねじ結合により連結すること」が構成要件<1>となっているが、イ号物件では、アウトコアチューブの先端にねじ結合によりリーマーが連結され、そのリーマーの先端にジョイントチューブがねじ結合により連結されている。

そして、前記構成の違いに基づき、本件考案では、リーマーを連結していないから砂や粘土のような軟質地層のボーリングには使用することができるが、硬質地層のボーリングには使用することができないのに対し、イ号物件では、リーマーを連結しているから、硬質地層のボーリングにも使用することができるという顕著な作用効果の違いがある。

また、本件考案では、「ジョイントチューブ13のビット2及びアウトコアチューブ1bとねじ結合するねじ部分13'を内面に形成」することが構成要件<7>となっているが、イ号物件では、ジョイントチューブは、ビットとリーマーとねじ結合するねじ部分を内面に形成している。

さらに、本件考案では、「エキステンションチューブ8の外面を、ビット2及びアウトコアチューブ1bの内面より外側に位置させた」ことが構成要件<8>となっているが、イ号物件では、エキステンションチューブの外面をアウトコアチューブの外側に位置させていない。

(2) 連結チューブの存在

本件考案では、「インナーコアチューブ1aの先端に前記ジョイントチューブ13に対応して位置されるエキステンションチューブ8を連結すること」が構成要件<2>となっているが、イ号物件では、インナーコアチューブの先端に連結チューブが連結され、その連結チューブの先端にエキステンションチューブが連結されている。

そして、この構成の違いに基づき、イ号物件では、コアチューブ内に入ったコアが万一アウトコアチューブ1bとともに回転しても、連結チューブが回転するだけで、インナーコアチューブが同時に回転することがないので、採取したコアが崩れることがないのに対し、本件考案では、インナーコアチューブの先端に直接前記ジョイントチューブを連結しているから、インナーコアチューブも同時に回転し採取したコアが崩れて使い物にならなくなるという作用効果上の違いがある。

また、本件考案では、「収納チューブ10をエキステンションチューブ8を介してインナーコアチューブ1aに着脱可能に取付け」ることが構成要件<5>となっているが、イ号物件では、収納チューブはエキステンションチューブを介して連結チューブに着脱可能に取り付けられ、この連結チューブがインナーコアチューブと着脱可能に連結されている。

さらに、本件考案では、「コア切削につれ、そのコアAが収納チューブ10内及びインナーコアチューブ1a内を前記袋5を凹部4から引き出しながら進行すること」が構成要件<6>となっているが、イ号物件では、コアは前記収納チューブ内及び連結チューブ内を経た後にインナーコアチューブ内に前記袋を凹部から引き出しながら進行するように構成されている。

(3) 有底円筒状の袋の不存在

本件考案では、「有底円筒状の袋5をその軸がコアチューブ1の中心軸となるとともに底部5bが凹部4後端からエキステンションチューブ8内方に張り出すように収納」したことが構成要件<3>となっているが、イ号物件では、有底円筒状の袋を使用していない。

なお、右は、「底がある円筒状の袋5をその底部5bが凹部4後端からエキステンションチューブ8内方に張り出すように収納」したものを意味することは明らかであり、右実用新案登録請求の範囲の記載から、本件考案にかかる公報の「図面の簡単な説明」の第三図のように底のない袋も含むと解釈することは困難である。

2  損害賠償請求について-原告の主張

被告は、故意又は過失により、本件実用新案権を侵害して、本件考案の公告の日である平成二年七月二三日から現在に至るまで、少なくとも総額三億円のイ号物件を製造販売した。

よって、原告は被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、実用新案法二九条二項による本件実用新案権の実施料相当額一五〇〇万円(販売総額三億円の五パーセント)の賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成五年五月二一日)から支払済みまで年五分遅延損害金を求める。

3  本件実用新案の技術的範囲の限定解釈及び自由技術の抗弁-被告の主張

一  本件実用新案の技術的範囲の限定解釈について

(1)  本件考案前の公知技術

<1> 特公昭四二-三九二二号公報

この公報には、コアチューブがインナーコアチューブとアウトコアチューブとからなるダブルチューブ型で、そのアウトコアチューブの先端に岩石等を切削するビットを取り付けるとともに、後端にはボーリングロッドを連結し、一方、インナーコアチューブの先端にエキステンションチューブを連結し、かつ、前記エキステンションチューブの内面全面にそのチューブと同一軸の円筒状凹部を形成し、この凹部に、有底円筒状の袋をその軸がコアチューブの中心軸となるとともに底部が凹部後端からエキステンションチューブ内方に張り出すように収納し、前記凹部の開口をその後端を除いてコアチューブと同一軸でビット内径とほぼ同一内径の円筒状収納チューブにより閉塞し、コア切削につれ、このコアが前記収納チューブ内及びインナーコアチューブ内を前記袋を凹部から引き出しながら進行するコア採取器具が記載されている。

<2> 特開昭五七-二〇一四九一号公報

ここに記載されているのは本件考案の前提となる従来技術であり、その欠点除去という課題を解決したのが本件考案である。したがって、この公報には、アウトコアチユーブとビットとの間にジョイントチューブを設けるとともに、ジョイントチューブのビット及びアウトコアチューブとねじ結合するねじ部分を内面に形成し、エキステンションチューブの外面をビットの内面より外側に位置させた以外の構成はすべて記載されている。なお、同公報では、エキステンションチューブの外面は、アウトコアチューブの内面より外側に位置している。

<3> 「試錐〔Ⅳ〕(昭和四九年七月一〇日発行の中村小四郎著・試錐工学上巻(機械と掘さく器具))

この本の三〇三頁図五-六三にはコアチューブがアウターチューブ(本件考案のアウトコアチューブに相当)とインナーチューブ(本件考案のインナーコアチューブに相当)とからなるダブルチューブ型で、アウターチューブの先端にアウターメタルクラウン(本件考案のビットに相当)をねじ結合したコア採取器具が記載されている。このコア採取器具の内部に袋を収納したものが、特開昭五七-二〇一四九一号公報に記載されたコア採取器具である。右公報のコア採取器具は、図面で見ると硬岩用でスイベル型(内管はコアを収容すれば不動管となり、外管のみが回転するもの)であるのに対し、この本の図五-六三のものは、軟質地層用でリジット型(内管と外管が共に回転するもの)である点で相違するが、右公報では、コア採取器具の型式や用途については何も制限がない。したがって、このコア採取器具の内部に袋を収納したものも右公報のコア採取器具に該当するものである。

三〇四頁図五-六四には、ダブルチューブ型でアウターチューブの先端にアウターエクステンションチューブ(本件考案のジョイントチューブに相当)をねじ結合するとともに、該アウターエクステンションチューブの先端に保護ビット(本件考案のビットに相当)をねじ結合したコア採取器具が記載されている。なお、同図では、ジョイントチューブは、リーマー及びビットとねじ結合するねじ部分を内面に形成し、かつ、ジョイントチューブの内面はリーマー及びビットの内面よりねじ部分の厚みだけ外側に位置している。また、アウトコアチューブはリーマーとねじ結合するねじ部分を内面に形成している。このコア採取器具の内部に袋を収容したものがイ号物件である。

三〇八頁図五-七〇には、ダブルチューブ型で、アウターチューブの先端にブランクリーマ(イ号物件のリーマーに相当)をねじ結合するとともに該ブランクリーマの先端にブランクビット(本件考案のビットに相当)をねじ結合したコア採取器具が記載されている。

(2)  以上を総合すると、次の各技術が本件考案の出願前公知であった。

<1> コアチューブがアウトコアチューブとインナーコアチューブとからなるダブルチューブ型で、そのアウトコアチューブの先端にねじ結合により岩石等を切削するビットを取り付けるとともに、後端にはボーリングロッドを連結したコア採取器具。

<2> ダブルチューブ型で、アウトコアチューブの先端にリーマーをねじ結合により連結し、そのリーマーの先端にジョイントチューブをねじ結合により連結し、さらにそのジョイントチューブの先端にねじ結合により岩石等を切削するビットを取り付けるとともに後端にはボーリングロッドを連結したコア採取器具。

<3> ダブルチューブ型で、アウトコアチューブの先端にリーマーをねじ結合により連結し、そのリーマーの先端にねじ結合により岩石等を切削するビットを取り付けるとともに後端にはボーリングロッドを連結したコア採取器具。

<4> リーマーは、独自の機能を有するもので、アウトコアチューブとは別のものと認識されるとともに、コア採取器具にはリーマーを取り付けたものとそうでないものがあったこと。

<5> ダブルチューブ型で、インナーコアチューブの先端にエキステンションチューブを連結し、かつエキステンションチューブの内面全周にそのチューブと同一軸の円筒状凹部を形成し、この凹部に、有底円筒状の袋をその軸がコアチューブの中心軸となるとともに底部が凹部後端からエキステンションチューブ内方に張り出すように収容し、凹部の開口をその後端を除いてコアチューブと同一軸でビット内径とほぼ同一内径の円筒状チューブにより閉塞するとともに、この収納チューブをエキステンションチューブを介してインナーコアチューブに脱着可能に取り付け、コア切削につれ、コアが前記収納チューブ内及びインナーコアチューブ内を前記袋を凹部から引き出しながら進行するコア採取器具。

(3)  本件実用新案の技術的範囲の限定解釈

右公知技術を参酌すると、本件考案で新規性を有するところは、ただ単にダブルチューブ式のコア採取器具の内部に袋を収納したことではなく、実用新案登録請求の範囲に記載のとおり、アウトコアチューブの先端にジョイントチューブをねじ結合により連結し、そのジョイントチューブの先端にねじ結合により岩石等を切削するビットを取り付けたダブルチューブ式のコア採取器具の内部に、コアを採取することができる有底円筒状の袋を収納するとともに、インナーコアチューブの先端にエキステンションチューブを取り付け、かつ、そのエキステンションチューブの外面を、ビット及びアウトコアチューブの内面より外側に位置させたことにあるというべきである。

したがって、本件考案の技術的範囲は、実施例に限定して最も厳格に解釈されるべきで、イ号物件のように、アウトコアチューブの先端にリーマーを連結し、そのリーマーの先端にジョイントチューブを連結し、そのジョイントチューブの先端にビットを連結したダブルチューブ式のコア採取器具の内部に、袋を収納するとともに、インナーコアチューブの先端に連結チューブを介してエキステンションチューブを取り付け、かつ、そのエキステンションチューブの外面をビットとリーマーの内面より外側に配置したものは、本件考案の技術的範囲には属さない。

二  自由技術の抗弁について

イ号物件は、公知技術から当業者がきわめて容易に推考することができる技術(自由技術)であるから、本件考案の技術的範囲には属しない。

すなわち、イ号物件は、特開昭五七-二〇一四九一号のコア採取器具の外管に代えて前記試錐工学上巻三〇四頁図五-六四のコア採取器具の外管を転用することにより構成したものであるが、この程度のことは当業者であればきわめて容易に推考することができるものである。

第三  当裁判所の判断

一  判断の前提となるべき事実

1  本件考案の関連技術及び本件考案前の公知技術など

(一) 乙二号証によれば、コアチューブがアウトコアチューブとインナーコアチューブからなるダブルチューブ式のコア採取器具において、従来方式では、採取にかかる資料が水密気密に包装されていないので、水や空気により撹乱されるという欠点があったところ、この点を解決すべく、資料包装袋装填室内に円筒形包装袋を収納することなどとした発明が、既に昭和三七年に特許出願され、昭和四二年二月一八日に、昭四二-三二九九号として特許出願公告されていたことが認められる。

(二) 昭和四九年七月に発行された中村小四郎著「試錐Ⅳ」(試錐工学上巻(機械と掘さく器具)」(乙四号証)においては、アウターチューブに保護リーミングシェル、さらにアウターエクステンションチューブを順次連結し、これに保護ビットを結合している、ダイヤモンドビット使用の硬岩用ダブルコアチユーブ(スイベル型。同書三〇四頁図五-六四)や、アウターチューブにブランクリーマが結合され、これにブランクビットが結合されているワイヤーラインコアバーレル(一種のスイベル式のダブルコアチューブ。同書三〇八頁図五-七〇)が紹介されている。

なお、右乙四号証によれば、リーミングシェルまたはリーマーは、ビットで掘った孔壁の凹凸をならし、かつ孔径が低下しないように一定に保たせる役目をもった一種のビットであり、これは、また、ビット外形の早期磨耗や振動を防止するとともに、孔曲がりを防止する役割を果たすものであることが認められる。

(三) 乙三号証によれば、コア採取器具について原告自身の出願にかかる特許(特願昭五六-八五一六二)があり、特許出願公開昭五七-二〇一四九一号として昭和五七年一二月九日に公開されていること、その実施例として、ダブルコアチューブ型で、そのアウトコアチューブの先端にビットを取り付けるとともに後端にはボーリングロッドを連結し、一方、インナーコアチューブの先端にエキステンションチューブの内面全面に凹部を形成し、その凹部に有底円筒状の袋をその筒軸がコアチューブの中心軸となるように収納し、コア切削につれ、そのコアがエキステンションチューブ内及びインナーコアチューブ内を前記袋を凹部から引き出しながら進行し、コアを袋によって被覆するようにして切削深度を長くしたコア採取器具が示されていることが認められる。

2  本件考案の特徴

甲三号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、右原告の出願にかかる特許のコア採取器具においては、ビットによりエキステンションチューブを被覆し、ビットを直接にアウトコアチューブに結合しているために、消耗品であるビットが長くなり、したがってコスト的にも高くなる上に、袋収納部の大きさも制約されるなどの問題があること、そこで、これらの問題点を解決するため、袋収納部と対応する部分であるアウトコアチューブとビットとの間にジョイントチューブを介装することを前提とした上で、ジョイントチユーブのビット及びアウトコアチューブとの結合をねじ手段として、その内面にねじを形成し、エキステンションチューブの外面をビット及びアウトコアチューブの内面よりも外側に位置させた構成を採用することとしたのが本件考案であることが認められる。

つまり、本件考案は、「ジョイントチューブのねじ部分を内面に形成する」構成を採用した結果、ビット及びアウトコアチューブ側のねじ部分は外面となるため、「ジョイントチューブ内面を外側に後退させてできる空間に、エキステンションチューブの外面を外側に突出させる」ことが可能になり、ひいては、「エキステンションチューブの外面をビット及びアウトコアチューブの内面より外側に位置させる」ことが可能になるわけである。

3  本件考案の出願審査の経緯など(乙一〇号証の一ないし一九、原告本人尋問の結果)

(一) 原告の出願審査請求を受けて、特許長審査官は、昭和五九年四月三日、「この出願の考案は、その出願前、国内において頒布された特許公報昭四二-三九二二号に記載された考案に基づいて、その出願前にその考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者がきわめて容易に考案をすることができるものと認められるから、実用新案法三条二項により、実用新案登録を受けることができない。」とする理由を付して、拒絶理由通知書を発した。

これに対し、原告は、同年五月一一日付け意見書及び手続補正書を提出し、ジョイントチューブの意義を補強したほか、明細書の補正をするなどしたが、その補正内容は軽微なものにとどまった。

(二) 特許庁審査官は、昭和六〇年三月二八日、原告の右意見や補正にもかかわらず、前記拒絶理由通知書記載の理由で拒絶査定を行い、右は同年五月一四日に発送された。

(三) そこで、原告は、同年六月一三日付け審判請求書により、右拒絶査定に対する不服を申し立てるとともに、同年七月一三日付け手続補正書、同月一九日付け審判請求理由補充書を提出した。

しかし、昭和六一年六月九日、平成五年改正前の実用新案法四一条により準用される右改正前の特許法一六一条の四第三項による前置審査において、原拒絶査定の理由により拒絶すべきものとする特許庁長官に対する報告がなされた。

(四) その後、平成元年一二月二七日付けで、審判長名による拒絶理由通知書が発せられたが、その理由は、明細書及び図面の記載の不備を理由とするもの(実用新案法五条三項、四項)であった。

(五) これを受けて、原告は、平成二年二月二八日付けで意見書に代える手続補正書を提出し、本件考案の構成要件のとおりに補正した。

同年三月一九日、出願公告の決定がなされ、さらに、平成三年一月二一日、「原査定を取り消す。本願の考案は、実用新案登録すべきものとする。」との審決がなされた後、本件実用新案登録がなされた。

4  本件考案の実施例とイ号物件の対比

一  甲三号証、乙一、九号証、弁論の全趣旨によれば、本件考案の実施例(以下、単に「本件考案」という。)、イ号物件ともにダブルチューブ式のコア採取器具であるが、両者の間には、以下のような相違点があることが明らかである。

(1)  本件考案においては、アウトコアチューブの先端に、ジョイントチーブ、ビットが順次ねじ結合されているのに対して、イ号物件は、アウトコアチューブの先端に、リーマー、ジョイントチューブ、ビットの順でねじ結合されている。

(2)  イ号物件においてはインナーコアチューブの先端には回転自在の連結チューブが連結されるとともに、その連結チューブの先端にエキステンションチューブが連結されているのに対して、本件考案においては右連結チューブがない。

(3)  本件考案においては、収納チューブ内に収納されている袋は有底であるのに対して、イ号物件における袋は両端が開口した筒状に形成され、その一端をリングの外周にゴムバンドで締め付けて固定して使用するようになっている。

(4)  本件考案においては、収納チューブをエキステンションチューブを介してインナーコアチューブに着脱可能に取り付けることとされているのに対し、イ号物件においては、収納チューブはエキステンションチューブを介して連結チューブに着脱可能に取り付けられ、この連結チューブがインナーコアチューブと着脱可能に連結されている。

(5)  本件考案においては、切削されたコアが収納チューブ内及びインナーコアチューブ内を袋を凹部から引き出しながら進行することとされているのに対して、イ号物件においては、コアは前記収納チューブ内及び連結チューブ内を経た後にインナーコアチューブ内を進行する。

(6)  本件考案においては、ジョイントチューブのビット及びアウトコアチューブとねじ結合するねじ部分を内面に形成することとされているのに対して、イ号物件においては、ジョイントチューブはビットとリーマーとねじ結合するねじ部分を内面に形成している。

(7)  本件考案においては、エキステンションチューブの外面をビット及びアウトコアチューブの内面より外側に位置させているが、イ号物件においては、エキステンションチューブの外側とアウトコアチューブの内面とはほとんど同一の大きさの径であって、前者を後者よりも外側に位置させてはいない。ただし、リーマーの内面よりもエキステンションチューブの外面を外側に位置させてはいる。

(二) 以上の相違点のうち、前記(1)、(6)及び(7)は、要するにリーマーの存否にかかるものであり、前記(2)、(4)及び(5)は、連結チューブの有無にかかるものであるから、結局、本件考案とイ号物件の主要な相違点は、<イ>イ号物件にはリーマーがあるのに、本件考案にはこれがないこと、<ロ>イ号物件には連結チューブが装着されているのに、本件考案にはこれがないこと、<ハ>本件考案におけるコアを収納すべき袋は有底円筒状の袋とされているのに、イ号物件においてはそのような袋を使用していないこと、という三点に帰する。

二  被告の「技術範囲の限定解釈」の主張(争点3の(一))について

1  前記一4のとおり、本件考案とイ号物件は全く同一であるわけではない。したがって、被告の右主張が認められるならば、イ号物件が本件考案の構成要件を充足するか否か(争点1)について検討するまでもなく、本件請求は理由がないことになる道理である。

2  そこで判断するに、本件考案前にこれに関連する技術として、前記一1のような公知技術があったこと、本件考案の出願審査に当たり、いったんは「当業者が極めて容易に考案することができるものと認められる」として拒絶査定がされていることは前示のとおりであるから、この点の判断はかなり微妙なものがあることは確かである。

しかしながら、右拒絶査定は結局のところ取り消されて、本件実用新案登録がなされているわけである(もっとも、前記一3で認定した審査の経緯によるも、原拒絶査定が取り消された理由については詳らかにしない。)し、そもそも、被告においても、本件考案がアウトコアチューブの先端にジョイントチューブをねじ結合により連結し、そのジョイントチューブの先端にねじ結合によりビットを取り付けたダブルチューブ式のコア採取器具の内部に、コアを採取することができる有底円筒状の袋を収納するとともに、インナーコアチューブの先端にエキステンションチューブを取り付け、かつ、その「エキステンションチューブの外面をビット及びアウトコアチューブの内面よりも外側に位置させた」という点においては、少なくとも新規性を有することを認めているのであって、本件考案が全部公知であるというわけではない。

3  そうすると、本件考案をその実施例に限定して厳格に解釈しなければならないとするまでの理由を直ちに見出し難く、結局、被告の右主張を採用することはできない。

三  イ号物件の構成要件該当性(争点1)について

1  イ号物件のアウトコアチューブにリーマーが連結されていることと、構成要件<1>、<7>、<8>の充足性

(一) リーマーの機能及び用途は、前記一1(二)のとおりであるところ、一般にリーマーを装着する技術的な理由は、ビットの機能を補うこと等にあり、リーマー自体はコア採取器具の他の部品とは独立した器具であり、コアを採取する地層の状況に応じて、その使用の要否が適宜決せられるものである。

イ号物件においてリーマーを装着する意義についても、硬質地層のボーリングにも使用できる(被告の主張)という機能を付加することにあるものと解される。なお、ダブルチューブ式のコア採取器具においてリーマーを用いることは本件考案前の公知技術であったものということができる。

(以上につき、乙四号証)

(二) 構成要件<1>の意義

構成要件<1>の「アウトコアチューブ1bの先端にジョイントチューブ13をねじ結合により連結し」の意義は、収納チューブ及びエキステンションチューブを用いて袋を収納する際の技術的課題に対して、ジョイントチューブを用いることにした点に依拠するものである。

すなわち、この収納チューブの袋収納容積を増加する際の欠点である採取コアの縮径などを改善するために、このエキステンションチューブと対向するアウトコアチューブの位置にジョイントチューブを介装するものであることから、「アウトコアチューブの先端に連結する」との構成を採用した点に、構成要件<1>の意義があるものと考えられる。

そして、この「連結」としては、アウトコアチューブの先端部分において、ジョイントチューブの機能を達成し得ることが必要であることから、例えば、リーマーが用いられる場合においても、該リーマーは当然にこのジョイントチューブの機能を阻害することのない位置に配置されることは技術的に明らかである。

そうだとすると、この「連結」においては、ジョイントチューブとアウトコアチューブとは、「直接にねじ結合により連結」される必要はないものと考えられる。このことは、リーマーがコアを採取する地層の状況などに応じて適宜に使用される器具であること、リーマーを用いても、本件考案におけるジョイントチューブの機能を何ら損なうことなく、該リーマーを配置できることからも明らかである。

(三) 構成要件<7>及び<8>の意義

ジョイントチューブの必須の構成である構成要件<7>の「アウトコアチューブ1bとねじ結合するねじ部分13」においては、ジョイントチューブの内容積を増加するため(すなわち、同一の外径において、内径を大きくとることができるため)には、その内面にねじ部分を形成することが有効であることは技術的に明らかである。

したがって、このことから、連結部分のねじ部分を「内面に形成」することが重要な要件であると考えられ、その結果、この連結部分でジョイントチューブの対となる部材としてアウトコアチューブを記載しているものと考えられ、この連結部材において対となる部材がアウトコアチューブ以外のもの、例えば機能的に独立したリーマーであっても、同様の作用効果が達成されることに変わりはない。

そうだとすると、この構成要件<7>の意義は、ジョイントチューブの内容積を増加するため(すなわち、袋収納部を大きくするため)に連結部分を改善するようにした点にあるものと考えられる。

また、本件考案の実施例においては、ジョイントチューブ側のアウトコアチューブのねじ部分は外面側であるが、この点にかかる構成要件<7>は、単に「ジョイントチューブ13の……ねじ部分13'を内面に形成」としており、このジョイントチューブに直接に連結される部材が結果的に外面側のねじ部分となることを規定しているものではあっても、本件考案において、アウトコアチューブ自体のねじ部分の構成を「外面」側に限定している記載であるとは考えられない。

このように、ジョイントチューブのねじ部分が内面に形成されることをもって構成要件<7>は充足され、アウトコアチューブ側自体は、ねじ部分を備えてねじ結合されていればよい(構成要件<1>)のである。

構成要件<8>についても、同<7>と同様であるものと解される。

(四) まとめ

以上のとおり、リーマーを用いるか否かは、リーマーが具備する機能及びコア採取器具を用いて採取するコアの地層の状況などに応じて、適宜に決められることであって、技術的にはリーマーが考案の必須の要件として記載されるものとなるわけではない。

したがって、明細書中にリーマーについての記載がないことのみをもって、リーマーを用いるコア採取器具が本件考案の技術的範囲に属しないこととなるものではないから、イ号物件がリーマーを備えることのみを理由として、これが本件考案の技術的範囲に属しないものとすることはできない。

そうすると、イ号物件は構成要件<1>、<7>、<8>を充足するものということができる。

2  イ号物件のインナーコアチューブに連結チューブが結合されていることと、構成要件<2>、<5>、<6>の充足性

(一) 連結チューブの意義

イ号物件において、連結チューブは、アウトコアチューブに連結したリーマーと対向する位置で、エキステンションチューブとインナーコアチューブとの間に連結されているところ、この実施態様からみて、連結チューブは、単にリーマーをアウトコアチューブに介装したことによるインナーコアチューブとアウトコアチューブとの整合性をとるための部材にすぎないものと認められる。

したがって、この連結チューブは、リーマーの挿脱(使用・不使用)に応じて適宜に挿脱されることになり、この限度において技術的意義があるにとどまる。

また、ダブルチューブ式のコア採取器具において、連結チューブを用いる技術についてみるに、「試錐Ⅳ」三〇四頁図五-六四において、「インナーエキステンションチューブ」が「保護リーミングシェル(リーマー)」と対向する位置に設けられているところからすれば、この「インナーエキステンションチューブ」がイ号物件における連結チューブに相当するものと考えられ、この技術は本件考案前の公知技術である。

(二) 構成要件<2>の意義

構成要件<2>の「インナーコアチューブ1aの先端に……エキステンションチューブ8を連結し」とは、前記構成要件<1>の「アウトコアチューブ1bの先端に……ねじ結合により連結し」と同様に、インナーコアチューブとエキステンションチューブとは「直接に連結」される必要はなく、両者間に他の部材が介装されていてもよく、単に「インナーコアチューブの先端に……連結」される構成を意味するものと認められる(但し、この構成要件<2>は構成要件<1>とは異なり、「連結」の具体的手段として「ねじ結合」だけでなく、その他の結合手段を用いるものでもよいものと解されるが、構成要件<5>との関係から「着脱可能」に連結される構成に限定される。)。

(三) 構成要件<5>、<6>の意義

構成要件<5>の「エキステンションチューブ8を介して」及び構成要件<6>の「収納チューブ10内及びインナーコアチューブ1a内」も、(二)と同様の意義であると解される。

(四) まとめ

以上のとおり、連結チューブを用いるか否かは、前記リーマーを用いるか否かと直接に係わるものであり、前記1と同様に該リーマーと対応して適宜決められるものと考えられる。

したがって、明細書中に連結チューブについての記載がないことのみをもって、連結チューブを用いるコア採取器具が本件考案の技術的範囲に属しないこととなるものではないから、イ号物件において連結チューブを備えることのみにより、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属しないとすることはできず、結局、イ号物件は構成要件<2>、<5>、<6>を充足するものというべきである。

なお、被告が主張する「イ号物件では、コアチューブ内に入ったコアが万一アウターコアチューブと共に回転しても、連結チューブが回転するだけでインナーコアチューブが同時に回転することはない」との作用効果は、連結チューブを用いることのみによって奏する作用効果ではないことは明らかである。

3  イ号物件において有底円筒状の袋を使用していないことと構成要件<3>の充足性

(一) 本件考案における「有底円筒状の袋」の意義

(1) コア採取器具における「袋」の意義

コア採取器具における「袋」は、明細書中の記載や従来技術などからみて、コアを円滑に採取し、採取したコアを収納して良好な状態で保持することに意義があるものと認められる。

(2) 「有底」の機能及び意義

明細書中の記載を参酌すると、「袋」は、「コアAの切削につれ、……コアAは、……袋5の底部5bに当接して袋5を凹部4から引き出しながら……進行する」機能を備えるものであることが必要である。

したがって、この「袋」を「有底」とすることの意義は、「袋を凹部から引き出すための手段」としての具体的構成にあるものと考えられる。

(3) 「有底円筒状の袋」の解釈

右によれば、袋を凹部から引き出すための手段として「コアが当接」する構造を「袋」に備えるものであれば、当該機能が達成されることとなり、また、その限度で足りるものというべきである。

そうだとすると、「有底円筒状の袋」とは、円筒状の袋自体が底部を持つものである必要はなく、円筒状の袋に別体で製造された底部となる部材を取り付けてもよいものというべきである。

(二) まとめ

以上のとおり、本件考案における「有底円筒状の袋」は、円筒状の袋自体が底部を持つものに限られることはなく、円筒状の袋に別体で製造された底部となる部材を取り付けた構成も包含されるところ、イ号物件における袋と円筒リングとの組み合わせからなる構成も、この有底円筒状の袋の機能を達成していることは明らかであるから、イ号物件は本件考案の構成要件<3>を充足するものというべきである。

4  以上のとおり、イ号物件は本件考案の全ての構成要件を充足しているものと認められるから、本件考案の技術的範囲に属するものと結論される。

四  被告の「自由技術の抗弁」(争点3(二))について

既に前記二で検討したところからしても、本件考案は従来技術に比して新規性、進歩性を有するものであることは明らかである。もっとも、前記一3の審査経緯に照らせば、イ号物件についても当業者がきわめて容易に推考することができる技術に属する類のものであるという余地が全くないわけではなさそうであるが、なお、その旨断ずるには至らない。

したがって、被告の右抗弁を採用することはできないことに帰する。

五  まとめ

1  以上によれば、原告は、被告に対し、実用新案法二七条一項に基づき、イ号物件の製造販売の禁止を求めることができる。

2  損害賠償について

原告は、被告の本件実用新案権侵害の不法行為により、被告によるイ号物件の販売総額三億円の五パーセントの実施料相当額の損害を被った旨主張する。

被告が業としてイ号物件を製造販売していることは当事者間に争いがないから、被告が原告に対し、損害賠償責任を負うことは明らかである(実用新案法二九条二項)が、本件実用新案権の実施料相当額を認めるに足りる的確な証拠はない(被告会社代表者尋問の結果によれば、被告がイ号物件を含む硬質地層用のコア採取器具を平成二年から年間平均約一二〇セット販売していること、平成六年の一年間についていえば、イ号物件を七〇セットくらい販売したことは認められるものの、この程度の事実をもとに損害賠償額を算定することはおよそ不可能である)。

したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の損害賠償請求は理由がない。

3  結論

以上認定説示したとおり、原告の請求は、主文の限度で理由がある。

よって、主文のとおり判決する。なお、差止め請求についての仮執行宣言の申立ては相当でないから、これを却下する。

(裁判長裁判官 西理 裁判官 神山隆一 裁判官 早川真一)

(別紙) 目録

別紙図面(乙一号証)で示した、コア採取器具で、

<1> コアチューブがインナーコアチューブとアウトコアチューブからなるダブルチューブ型で、そのアウトコアチューブの先端にねじ結合によりリーマーが連結され、そのリーマーの先端にジョイントチューブをねじ結合により連結し、そのジョイントチューブの先端にねじ結合により岩石等を切削するビットを取り付けるとともに後端にはボーリングロッドを連結している

<2> 一方、インナーコアチューブの先端に連結チューブが連結され、その連結チューブの先端にエキステンションチューブを連結し、かつ、エキステンションチューブの内面全周にそのチューブと同一軸の円筒状の凹部を形勢している

<3> この凹部に、袋をその軸がコアチューブの中心軸となるとともに後方に引き出し自在に収納し、またインナーコアチューブに移動自在に円筒リングを内装するとともに前記袋の後端部に同円筒リングを着脱自在に取り付けて、円筒リングの後退に従って袋が後方に引き出されるように構成している

<4> 前記凹部内には、コアチューブと同一軸でビット内径とほぼ同一径の円筒状収納チューブが同凹部の後端を除く部分を閉塞して設けられている

<5> この収納チューブはエキステンションチューブを介して連結チューブに着脱可能に取り付けられ、この連結チューブの後端部にインナーコアチューブの前端をはめ込み式に着脱可能に取り付けている

<6> コア切削につれ、そのコアが収納チューブ内及び連結チユーブ内を経た後にインナーコアチューブ内を前記袋を凹部から引き出しながら進行するダブルチューブ式のコア採取器具である

<7> 前記ジョイントチューブのビット及びリーマーとねじ結合するねじ部分をジョイントチューブの内面に形成している

<8> 前記エキステンションチューブの外面を、ビット及びリーマーの内面より外側に位置させたことを特徴とするコア採取器具である。

(別紙)

乙第1号証

<省略>

(別紙)

<>日本国特許庁(JP) <11>実用新案出願公告

<12>実用新案公報(Y2) 平2-27032

<51>Int.Cl.E 21 B 25/00 識別記号 庁内整理番号 7903-2D <24><44>公告 平成2年(1990)7月23日

<>考案の名称 コア採取器具

審判 昭60-12364 <21>実願 昭57-59783 <36>公開 昭58-160991

<22>出願 昭57(1982)4月23日 <43>昭58(1983)10月26日

<72>考案者 永田希喜 大阪府吹田市江坂町2丁目18番19号

<71>出願人 永田希喜 大阪府吹田市江坂町2丁目18番19号

<74>代理人 弁理士 鎌田文二

審判の合体 審判長 佐竹一規 審判官 風間武彦 審判官 石井良

<56>参考文献 特公 昭42-3922(JP、B1)

<57>実用新案登録請求の範囲

コアチューブ1がインナーコアチューブ1aとアウトコアチューブ1bとから成るダブルチューブ型で、そのアウトコアチューブ1bの先端にジョイントチューブ13をねじ結合により連結し、そのジョイントチューブ13の先端にねじ結合により岩石等を切削するビット2を取付けるとともに後端にはボーリングロッド3を連結し、一方、インナーコアチューブ1aの先端に前記ジョイントチューブ13に対応して位置されるエキステンションチューブ8を連結し、かつ、前記エキステンションチューブ8の内面全周にそのチューブ8と同一軸の円筒状凹部4を形成し、この凹部4に、有底円筒状の袋5をその軸がコアチューブ1の中心軸となるとともに底部5bが凹部4後端からエキステンションチューブ8内方に張り出すように収納し、前記凹部4の開口をその後端を除いてコアチューブ1と同一軸でビット2内径とほぼ同一内径の円筒状収納チューブ10により閉塞するとともに、この収納チューブ10をエキステンションチューブ8を介してインナーコアチューブ1aに着説可能に取付け、コア切削につれ、そのコアAが前記収納チューブ10内及びインナーコアチューブ1a内を前記袋5を凹部4から引き出しながら進行するダブルチューブ式のコア採取器具において、上記ジョイントチューブ13のビット2及びアウトコアチューブ1bとねじ結合するねじ部分13’を内面に形成し、上記エキステンションチューブ8の外面を、ビツト2及びアウトコアチューブ1bの内面より外側に位置させたことを特徴とするコア採取器具。

考案の詳細な説明

この考案はダブルチューブ式のコア採取器具に関する。

この種のコア採取器具は、ボーリングロツドを回転させてビツトにより岩石等を円柱状に切削し、そのコアをコアチューブ内に送り込んで採取するものである。

ところで、採取作業を破砕層及びクラツクのい地盤で行なうと、採取コアがしつかりした円、状とならず、くずれたり、破片がコア外面から突出したりする。この破片はコアチューブ内面にくい込み、コア自身の送り込みを妨害し、この様に破片がくい込んでコアりが生じると、切削作業を停止し、コア採取器具を地盤上に上げて清掃し、再びボーリング孔に挿入するという操作をしなければならない。それゆえ、上記の破砕層及びクラツクの多い地盤では1回の掘進長さが20~30cmとかくなり、作業性がい。とくに、掘進深度が深くなると、ロツド(採取器具)の上げ下げに労力及び時間を費し、掘進時間より採取器具の上げ下げの時間が長くなつて非常に作業性がい。さらに、コアりはスライムの原因にもなる。

そこで、本願出願人は、特開昭57-201491号公報に示すように、コアチューブがインナーチューブとアウトチューブとから成るダブルチューブ型で、そのアウトチューブの先端に岩石等を切削するビツトを取付けるとともに後端にはボーリングロツドを連結し、一方、インナーコアチューブの先端にエキステンションチューブを連結し、そのエキステンションチューブの内面全周に凹部を形成し、この凹部に有底円筒状の袋をその筒軸がコアチューブの中心軸となるように収納し、コア切削につれ、そのコアがエキステンションチューブ内及びインナーコアチューブ内を前記袋を凹部から引き出しながら進行し、コアを袋によつて被覆するようにして切削深度を長くしたコア採取器具を提案した。

しかし、この採取器具においては、ビツトによりエキステンションチューブを被覆してビツトを直接にアウトコアチューブに連結しているため、消粍品であるビツトが長くなりコスト的にも高くなつているうえに、袋収納部の大きさにも問題がある。このビツトの長さの問題は、アウトコアチューブとビツト間にジョイントチューブを介設すれば解決でき、袋収納部の問題は、そのジョイントチューブをエキステンションチューブに対応せしめ、かつジョイントチューブ内面をビツト及びアウトコアチューブ内面より外側に位置させればエキステンションチューブを外側に出できて解決できる。

この考案は、以上の点に留意し、上記問題点を解決したコア採取器具を提供することを目的とする。

すなわち、上記のジョイントチューブを採用したダブルチューブ式コア採取器具において、ジョイントチューブのビツト及びアウトコアチューブとの結合をねじ手段としてその内面にねじを形成し、エキステンションチューブの外面を、ビツト及びアウトコアチューブの内面より外側に位置させたのである。

このように、ジョイントチューブのねじ部分を内面側とすると、ビツト及びアウトコアチューブ側のねじ部分は外面側となり、ジョイントチューブの内面をビツトおよびアウトコアチューブの内面より外側に位置させることができ、このジョイントチューブ内面を外側に後退させてできる空間にエキスデンションチューブを突出させて、その外面をビツトおよびアウトコアチューブの内面より外側に位置させる。

以下、この考案の一実施例を添付図面に基づいて説明する。

図に示すように、コアチューブ1はインナーコアチューブ1aとアウトコアチューブ1bとから成り、アウトコアチューブ1bの先端にジョイントチューブ13がねじ結合されているとともにそのジョイントチューブ13の先端にねじ結合により岩石等を切削するビツト2が取付けられ、アウトコアチューブ1bの後端にはコアバレルヘツド6を介してボーリングロツド3がねじ込んで連結され、インナーコアチューブ1aはコアバレルヘツド6にベアリング7を介して回転自在に支持されている。

前記ジョイントチューブ13の両端のねじ部分13’は内面に形成されており、よつて、ビツト2とアウトコアチューブ1bのねじ部分2’、1b’は外面に形成され、ジョイントチューブ13の内面はビツト2及びアウトコアチューブ1bの内面よりねじ部分2’、1b’の厚み分だけ外側に位置している。

インナーコアチューブ1aの先端にはエキステンションチューブ8が取付けられ、このチューブ8の先端に収納チューブ10を介してリフターチューブ8が設けられており、リフターチューブ9、収納チューブ10、エキステンションチューブ8及びインナーコアチューブ1aによリコアAの収納部が形成される。この収納部の長さは用途によつて適宜に選定すればよい。

エキステンションチューブ8はジョイントチューブ13に対応して位置されてビツト2及びアウトコアチューブ1bの内面より外側に突出し、その内面は基部を除きインナーコアチューブ1aの内径より大きくしてあり、この没部が袋5を収納するチューブ8と同一軸の円筒状凹部4となるわけであるが、この凹部4は、エキステンションチューブ8が従来のものより大内径となつているため袋5を収納しやすくなつている。

収納チューブ10は、ビツト2の内径と同一内径に形成され、エキステンションチューブ8を介してインナーコアチューブ1aに着説自在に取付けられ、コアチューブ1と同一軸となつており、その中程から後部でもつて、前記凹部4の開口もその後端を除いて閉塞している。

袋5は、凹部4に収納したその径を収納チューブ10の凹部4に臨む後部外径とほぼ同一か若干大きく設定してあり、合成樹脂等の種々の材料で製作し、細かい網目状のものでもフイルム状でもよい。要は、コア破片が突出しなければよい。袋5の凹部4からの離脱防止は収納チューブ10により行なわれ、袋5のインナーコアチューブ1a内方に張り出した底部5bが後述のごとくコアAの進行につれて後方に押されると、筒部5aが底部5b側からインナーコアチューブ1a内に送り込まれる。したがつて、袋5の開口部5cは凹部4に留り、すなわち、自分自身が収納チューブ10とインナーコアチューブ1aとの間隙から引き出さされないかぎり凹部4内にあたかも着説自在に支持された状態となる。

リフターチューブ9の内面には周方向に分割されたコアリフター12が前後に移動可能に設けられており、ビツト2により切削された円柱状コアAが、このコアリフター12により案内されてインナーコアチューブ1a内に導かれるとともに引き抜き時の抜け落ちを防止される。すなわち、切削時は、第2図のごとく後退して内径を広げ、コアAの送り込みに支障なく案内し、引き抜き時には、第1図のごとく、自重及びコアAの重量により前進して、内径を狭めてコアAの落下を防止する。

なお、袋5の長さ(深さ)はコアチューブ1の内部長さ及び採取コアAの長さによつて適宜に設定し、また、袋5の凹部4への収納はどんな方法でもよく、第1図に示すように折り置んでもよいし、第3図のように蛇腹状に折曲してもよい。要は、円滑に送り出されればよい。さらに、袋5の底は、第4図aのように全体を覆うようにしてもよいし、同bのように中央に穴15をあけたものとしてもよい。また、袋5の底は、第3図に示すように円筒リング11とすることもでき、この場合、その円筒リング11をインナーコアチューブ1aに移動自在に内し、袋5の筒部5aをそのリング11溝に着説自在に取付ける。この第4図bの袋底の場合は穴15から、第3図の袋底の場合にはリング11内から、コアA中の切削水がそれぞれ抜けるため、水の排出が円滑になされる効果がある。

また、インナーコアチューブ1aとアウトコアチューブ1bとの間は水の通路となるが、図に示すようにエキステンションチューブ13の後部外周に適宜数の穴14を形成しておけば、その孔14から水がエキステンションチューブ8内に噴出してコア破片を外部に押しやり、袋5の引出しを円滑にする。

実施例のコア採取器具は以上のように構成され、岩石等のコアを採取する隙には、第1図に示すように、袋5を凹部4に収納した状態で切削を行なうと、コアAの切削につれ、第2図に示すように、コアAは、コアリフター12をガイドとして収納チューブ10内に送り込まれ、袋5の底部5bに当接して袋5を凹部4から引き出しながら収納チューブ10内及びインナーコアチューブ1a内を進行する。この際、コアAの外周面は袋5によつて被覆されるため、破片等が外周面から突出することなく、すなわち、コアAは切削された円柱状の状態を保つてインナーコアチューブ1a内を進行する。したがつて、破片がインナーコアチューブ1a内面に突きささる等によつて両者間にが生じることなく、また、袋5の滑走性によつてコアAは円滑に進行する。

この器具の許容切削深度に違すると、すなわち、コアAがインナーコアチューブ1aの具部にすると、掘進孔(ボーリング孔)からこの器具を地盤上に引き上げ、ビツト2、ジョイントチューブ13、リフターチューブ8、収納チューブ10、エキステンションチューブ8等をコアチューブ1から取り外すとともに、袋5と一体にコアAを取り出す。取り出し後、再び袋5を凹部4内に収納し、この袋5は再利用でも新しいものでもよく、各チューブ8、10、9及びビツト2をコアチューブ1に取り付けて第1図の状態とし、再度、掘進孔に送り込み前述の採取作用を行なう。以上の作用を繰り返して掘進する。

以上のように、この考案のコア採取器具によると、ジョイントチューブのビツト及びアウトコアチューブとねじ結合するねじ部分を内面に形成し、袋収納部を形成するエキステンションチューブの外面を、ビツト及びアウトコアチューブの内面より外側に位置させた構成としたので、インナーコアチューブ内面から外側への距離(深さ)で決定される袋収納部を大きくとることができ、袋の長さを長くとつても十分にかつ確実に収納することができて円滑な送り出しが行なわれる効果がある。

図面の簡単な説明

第1図及び第2図はこの考案に係るコア採取器具の一実施例を示し、第1図は切削作業前、第2図は切削作業中のそれぞれ要部断面図、第3図は他の実施例の要部断面図、第4図a、bは袋底部の各例の説明図である。

1……コアチューブ、1a……インナーコアチューブ、1b……アウトコアチューブ、1b'……ねじ部分、2……ビツト、2’……ねじ部分、3……ボーリングロツド、4……凹部、5……袋、5b……袋底部、8……エキステンションチューブ、10……収納チューブ、13……ジョイントチューブ、13’……ねじ部分。

第3図

<省略>

第4図

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第1図

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第2図

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実用新案公報

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